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画像形成装置における省エネ技術とその特許①

目次
1.はじめに
2.画像形成技術の発明と省エネ技術の特許出願推移
3.代表的な省エネ定着技術とその特許出願推移
4.さいごに

1.はじめに

近年の地球温暖化による全世界的な異常気象の発生やエネルギー価格の高騰は、世界が直面する非常に大きな課題となっており、あらゆる産業分野において省エネ技術の開発が急務となっています。
本レポートでは、プリンタやデジタル複合機等の画像形成装置において、省エネ化に大きな貢献を果たした定着技術に関して、特許を切り口に出願件数の推移から見た開発経緯や実用化された技術に関する代表的な出願特許、並びに今後の開発動向等について纏めましたので複数回に分けてご紹介します。

2.画像形成技術の発明と省エネ技術の特許出願推移

画像形成装置として広くオフィス等に普及しているプリンタやデジタル複合機は、アメリカのチェスター・フロイド・カールソンが発明し1942年に特許出願した電子写真法(カールソンプロセス)を主に用いています。

電子写真法による画像形成プロセスは【図2】に示す様に①帯電→②露光→③現像→④転写→⑤定着という5つのプロセス(電子写真プロセス)から成っています。
具体的には帯電プロセスで感光ドラム表面に一様にマイナスあるいはプラスの静電気を帯びさせ、露光プロセスで帯電した感光ドラム表面にレーザー光を照射し静電気を消失させることで画像(静電潜像)を描き、現像プロセスで感光ドラム表面の静電気が消えた部分にトナーを付着させてトナー画像を形成し、転写プロセスで感光ドラムに形成されたトナー画像を用紙に移し取り、定着プロセスでトナー画像を用紙に固定させます。

【図2】電子写真プロセス

定着プロセスでは、一般的に150~200度程度に加熱された定着部材を用いてトナーが付着した用紙を加熱することで樹脂からなるトナーを溶融し用紙に固定(定着)するため、電子写真プロセスの中で最もエネルギーを消費するプロセスであり、過去より定着プロセスにおける省エネ技術の開発が積極的に行われ、数多くの特許が出願されてきました。

【図3】は特許情報プラットフォーム J-PlatPatを用いて、1980年以降に出願された定着特許並びにその内で省エネを目的とした特許の出願件数の推移を調べたものです。

【図3】定着特許の出願件数推移

定着プロセスにおける省エネ技術については1980年代においても開発が行われてきましたが、1997年に京都で開かれた気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)において、先進国の各国が二酸化炭素などの温室効果ガスを将来どのくらい削減するかの削減目標を定めた京都議定書が採択されて以降、各社の技術開発が加速し特許出願件数も急増しました。

その結果、【図4】に示しますように、複合機の消費電力量は2005年度から2015年度の10年間で約80%削減され、実用化技術としてほぼ確立されたことにより、近年では特許出願数としては減少傾向にあります。

【図4】複合機の消費電力量推移  出典:JBMIA

3.代表的な省エネ定着技術とその特許出願推移

定着プロセスにおける代表的な省エネ技術としましては、【図5】に示しますように大きく4つに分類でき、各分類において複数の異なるアプローチ方法が存在します。

【図5】代表的な省エネ定着技術

これら省エネ定着技術は定着に関するテーマコード(2H033 電子写真における定着)においてFタームで分類されていますので(例えば誘導加熱定着であればBE06)、J-PlatPatを用いて1980年以降に出願された各省エネ定着技術の出願件数の推移を調べた結果を【図6】に示します。

【図6】各省エネ定着技術の出願件数推移

これより2005年以降の大幅な省エネ化に大きく寄与した技術としましては、

 ① 定着ローラをベルトに変更
 ② ヒーターランプを面状ヒーターに変更
 ③ 赤外線加熱を誘導加熱に変更
 ④ 定着部材を外部から加熱
 ⑤ 加圧ローラを加圧パッドに変更

であることが伺えます。

次回レポートでは、これら各省エネ定着技術の代表的な出願特許について紹介します。

4.さいごに

AIRIは特許庁登録調査機関として、特許庁からの発注を受け、特許審査の際に必要な先行技術調査を行っている企業です。
年間20,000件超の先行技術調査を受託しており、調査対象となる出願は広範な技術分野にわたります。AIRIに所属する調査員は日々の調査業務において担当技術分野の技術トレンドに常に接しており、先行技術調査結果に基づいた特許性(新規性・進歩性)の判断や、日本特許庁以外の各国特許庁での審査経緯の分析も得意としております。
各種特許調査をはじめ、特許に関するご相談はお気軽にAIRIにお問い合わせください。

執筆者プロフィール
香川 敏章
特許調査事業部(人間環境領域) 兼 社長室経営企画グループ
1989年3月に神戸大学工学部生産機械工学科修士課程修了後、同年4月にシャープ株式会社に入社。
プリンタ、デジタル複合機、電池等の研究開発、商品化に従事し、在職中の出願特許は280件を数える。
2017年3月にAIRIに入社し、事務機、電池、生産機械等、専門性を活かし幅広く特許調査を担当。
2023年7月より現職。香川県丸亀市出身。

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